コードをほとんど書けない人が、ブラウザで動く3D対戦ゲームを公開した

海外の技術系掲示板Hacker Newsで、ある個人開発者の投稿が注目を集めました。訳すと、プログラミング経験はほとんどないけれど、Claude Codeを使ってWebGPUの多人数対戦ゲームを作った、という報告です。公開されたのはsweatypanzer.comというサイトで、ブラウザを開けばその場で動きます。

先に言葉を開いておきます。WebGPUとは、ブラウザからパソコンの画像処理装置(GPU)の力を直接借りるための新しい仕組みです。これまでブラウザで3Dを動かしてきた技術より一段速く、細かい制御ができます。多人数対戦(マルチプレイヤー)とは、離れた場所にいる複数の人が同じゲーム世界に同時に入り、互いの動きがほぼ遅れなく見える仕組みのことです。

この2つが同時に出てくる作りものは、これまで完全に専門職の領域でした。3Dの見た目を作る人、通信の遅れを吸収する人、サーバーを運用する人が分かれていて、小さくても数人と数ヶ月を見込むのが普通でした。個人が趣味で手を出すと、たいてい絵が出た時点で力尽きます。専門教育を受けていない一人の個人が、チーム前提だった種類のものを公開まで持っていけた。ここが今回の事例の中身です。

念のため断っておくと、私が確認できるのは本人の告知と公開されているサイトまでで、実際にかかった期間や費用、どこまで自分で書いたのかという内訳は分かりません。それでも、この投稿が技術者の集まる場所で驚かれたという事実そのものが、変化の大きさを示しています。彼らにとっても意外だったということです。

何が起きたのか。難しいのは絵ではなく、ズレの調整

非エンジニアの方が想像しにくいのは、この手の開発で本当に骨が折れる場所です。3Dの箱を画面に出すところは、実は今はそれほど大変ではありません。厄介なのは、複数の人が同時に動くときのズレの処理です。

たとえば東京の人と大阪の人が同じ画面で撃ち合うとき、通信には必ず数十ミリ秒の遅れが出ます。自分の画面では当たっているのに相手の画面では外れている、という状態が普通に発生します。だから、誰の画面を正解とするか、遅れた分をどう埋め合わせるか、遅れて届いた情報をどう巻き戻すかを決めなければいけません。この判断はコードを書く技術というより、設計の勘どころです。加えて1秒間に数十回、全員の位置を送り合う処理が動くので、少しでも無駄があるとすぐに重くなります。

Claude Codeのような道具がここで効くのは、こうした定石を大量に知っているからです。人間側が意図を日本語で伝えれば、その分野で使われている標準的な進め方を提案し、動く形まで書き下ろします。エラーが出たときに、その文面を読み解いて原因の見当をつけるのも得意です。素人が独学でやると1週間止まる種類の詰まりが、30分の往復で抜けることがあります。

ただし、本人が経験ゼロだったとは私は読みません。限られた経験と書いているのは、コードを読んで意味を追える程度はある、という意味でしょう。そしてこの事例で本当に機能したのは、書く力ではなく、動かしてみて何がおかしいかを言葉にする力です。 遅れが気になる、当たり判定が甘い、人が増えると重い。この観察を投げ返せる人が、完成まで行けます。

非エンジニアにとっての意味は、作れる範囲の境界が動いたこと

私はこの話をゲームの話としてはほとんど読んでいません。読者の多くはゲームを作りません。重要なのは、これまで自分の側にはなかった線が引き直された、という点です。

中小企業や個人事業で仕事をしていると、こういう場面がよくあります。この集計、毎月2日かかっているから何とかしたい。でも業者に頼めば数十万円、要件を説明する打ち合わせに何回も出て、上がってきたものは微妙にずれている。その微妙なずれを直すのに追加費用がかかる。だから諦めて、手作業を続ける。10年これをやっている会社は珍しくありません。

この諦めの理由は、たいてい技術的な難しさではなく、割に合わなさです。月2日を節約するために数十万円と3ヶ月を投じる意思決定はしにくい。ところが自分の手元で数時間から数日で試作できるなら、判断が変わります。外注するかしないかの前に、自分で一度作って試すという選択肢が増えた。これが非エンジニアにとっての実利です。

しかも試作の副産物として、仕様が明確になります。自分で作ったものを1ヶ月使えば、本当に必要な機能と、あったら嬉しい程度の機能が体感で分かります。その状態で外注すれば、伝わり方がまるで違います。私は、個人が作れるようになったことより、こちらの効果のほうが大きいと考えています。

20人規模の建材商社。営業事務の見積比較を1画面にする

具体例に落とします。従業員20人ほどの建材商社で、営業事務を担当している方を想定します。日常業務は、仕入先3社から届く見積(PDFとExcelが混在)を見比べて、自社の粗利を計算し、社内の見積フォーマットに転記する作業です。1件あたり20分から30分、多い日は15件。転記ミスが出ると、あとで請求金額が合わなくなります。

この方が作れるものは、大がかりなシステムではありません。届いたファイルを1つのフォルダに入れると、品番と単価と数量を読み取って一覧表にし、社内の掛け率を当てて粗利を並べて表示するだけの道具です。判断は人がやります。読み取りが怪しい行には印を付けて、必ず目で確認させます。

これで20分が5分になるなら、月に換算して30時間近く空きます。ここで大事なのは、見積の意思決定を自動化しないことです。 読み取りと計算という、間違えても確認すれば分かる部分だけを任せ、いくらで出すかは人が決める。この線引きを守ると、非エンジニアが作った道具でも実務に耐えます。逆に、この線を越えて自動で価格を出すところまで作ると、一度の事故で信用を失います。作る範囲を自分で決められるのが、自作の一番の強みです。

個人事業の社会保険労務士。顧客向けの試算ツールを自分の名前で出す

次は一人で事務所をやっている社会保険労務士の方です。問い合わせの多くは、うちの規模だと社会保険料の負担はどのくらいになるのか、助成金の対象になりそうか、という初期相談です。この段階では報酬をもらいにくく、しかし説明には30分から1時間かかります。断ると縁が切れるので、実質的に無料の相談対応が積み上がっていきます。

この方が作れるのは、従業員数と平均給与と業種を入れると概算が出る、簡単な試算ページです。数字の根拠と、あくまで概算であって正式な判断は個別相談が必要という注意書きを必ず併記します。そして最後に、詳しくはこちらから相談してくださいという導線を置きます。

効果は時間の節約だけではありません。初期相談の水準が揃い、問い合わせてくる人が事前に自分の数字を見た状態で来るので、会話が本題から始まります。さらに、こういうページは同業の事務所がまだ持っていないことが多く、そのまま集客の差になります。 数字の元になる料率は毎年変わるので、更新の手間だけは必ず自分の年間スケジュールに入れておく必要があります。古い料率のまま公開されている試算ページは、信用を損ねる側に回ります。

10人規模のリフォーム会社。現場写真と日報を勝手に片付けさせる

3つ目は、社長を含めて10人のリフォーム会社です。職人が現場でスマホで写真を撮り、社長のLINEに送ってきます。1日で50枚。あとで施主に報告書を出すとき、どの写真がどの現場のどの工程か分からなくなり、社長が夜に1時間かけて振り分けています。誰も好きでやっていないのに、10年続いている作業です。

ここで作れるのは、写真をまとめて置くと、撮影日時と場所の情報を手がかりに現場ごとのフォルダに振り分け、日付順に並べた報告書の下書きまで作る道具です。工程の判別は完璧にならないので、確信が低いものは未分類フォルダに置いて人が最後に見ます。それでも8割が自動で片付けば、1時間は10分になります。

私がこの例を挙げたのは、こういう仕事が世の中でいちばん放置されているからです。売上に直結しないので予算が付かず、担当者の善意で吸収され、外注しようにも金額に見合いません。予算が付かないから放置されてきた作業こそ、自作の道具が最初に効く場所です。 加えて、社長が夜に片付けていた作業がなくなると、その1時間が見積や営業に回ります。効率化の数字よりも、経営者の時間の使い方が変わることのほうが実は大きい。

そのまま使える手順。1本目は必ず自分の仕事から選ぶ

順番があります。最初に決めるのは、作るものではなく、やめたい作業です。1つに絞ります。複数を同時に解決しようとした試作は、ほぼ必ず途中で止まります。

次に、完成の判定条件を1行で書きます。毎月2日かかっている集計が、30分で終わること。この1行がないと、いつまでも直し続けて終わりません。判定条件は自分が測れるものにします。速くなる、楽になる、という表現は測れないので使いません。

そして相談です。最初の依頼は、作りたいものの説明より、いまの状況の説明を厚くします。次のプロンプトはそのまま使えます。

(コピーして使えるプロンプト:)

私は非エンジニアです。いまの作業を説明します。
・立場: 20人規模の建材商社の営業事務
・作業: 仕入先3社の見積(PDFとExcel)を見比べ、粗利を計算して社内フォーマットに転記
・頻度と時間: 1日15件、1件20分
・困っていること: 転記ミスが月2回出る
・完成の条件: 1件5分で終わり、怪しい行には印が付いている

このために、まず一番小さく動くものを作ってください。
私はコードを読めないので、次の3点を必ず守ってください。
1. 最初は機能を削って、動く状態を先に見せる
2. 実行の手順を、コピーして貼るだけの形で書く
3. 専門用語を使うときは1行で意味を添える

ここから先は往復です。実データを1件だけ入れて自分で使い、おかしい所を日本語で戻す。これを5回から10回繰り返すと、だいたい使える水準に届きます。最初のユーザーは必ず自分にします。 自分が使っていない道具を人に渡すと、細かい不満が返ってこないまま放置され、静かに使われなくなります。自分で1週間使い、それから社内の2人に渡す。3人が使い続けたものだけ、全社に広げる価値があります。

注意点と、よく聞く誤解の整理

まず誤解のほうから。コードを一切読めなくても何でも作れる、とは私は言いません。今回の事例の本人も、限られた経験と書いています。読んで大意を追える力があると、明らかに進みが速い。ただし、その力は最初から必要ではなく、往復しているうちに付いてきます。読めないから無理と考える必要はありませんが、いっさい理解しないまま完成する、と期待するのも違います。

次に、一度の指示で完成すると思わないことです。実際の作業時間の大半は、動いたものを使ってズレを見つけ、直しを頼む往復に使われます。この往復が本体であり、面倒な作業ではなく仕様を決める工程です。

自分で作った道具は、自分の仕事の理解が反映される。だから外注した完成品より不便でも、実務で生き残ることがあります。

そして現実的な線引きです。会計、給与計算、請求、個人情報を扱う部分は、自作の道具をそのまま本番に据えないほうがいい。間違いが金額と法律に直結し、責任の所在が自分になります。この領域は、既存のサービスを使うか、専門家に頼むのが正解です。自作が向いているのは、間違っても確認すれば分かる範囲、つまり集計、整理、下書き、比較のあたりです。

公開範囲にも注意が必要です。ブラウザで開けるものを作ると、URLを知っている人は誰でも入れる状態になり得ます。顧客名簿や社内の単価が入ったものを、鍵をかけずに置いてはいけません。自分のパソコンの中だけで動かすか、ログインの仕組みを必ず入れるか、どちらかを最初に決めます。

最後に引き継ぎです。作った本人しか使い方を知らない道具は、その人が休んだ日に業務が止まります。作った直後に、何のための道具か、どう動かすか、困ったときに何を見るかを、A4で1枚書いておく。動くものを作る難しさは下がりましたが、続けて使える状態にする仕事は、いまも人間の側に残っています。

まとめ。境界が動いたことに気づいた人から順に得をする

今回の事例を、才能ある個人の武勇伝として読むと何も残りません。私が受け取ったのは、これまで専門チームの側にあった線が、思っていたより手前に来ていたという事実です。3Dの多人数対戦ゲームがそこに入るなら、見積の比較や写真の振り分けや試算ページは、とうに入っています。

やることは大きくありません。いま自分の会社で、予算が付かないまま誰かの善意で吸収されている作業を1つ思い出す。それが月に何時間かを数える。そして完成の条件を1行で書き、日本語で相談を始める。数日で動くものが出て、1ヶ月使えば、外注すべきかどうかも自分で判断できるようになります。

大事なのは、いきなり全社の仕組みを変えないことです。1つの作業、1人のユーザー、1週間の試用から始める。この順番を守った会社が、半年後に3つも4つも自作の道具を持っています。そしてこの差は道具の数ではなく、自分たちで試して直せる状態を手に入れたかどうかの差になります。 外注しかできない会社と、まず試せる会社では、1年で意思決定の回数が何十倍も変わります。

何から手を付けるか迷う段階なら、そこを一緒に整理するところからで構いません。Claude Worksでは、御社の業務のどこを自作の道具に置き換えられるか、どこは触らないほうがいいかを、無料30分の相談で具体的に切り分けています。抱えている作業を1つ持ってきていただければ、その日に進め方までお持ち帰りいただけます。