「同じ文章を、毎回まるごと送り直していた」
あなたがAIに払っているお金。その一部は、AIが同じ文章を何度も読み直すために消えていたかもしれません。
2026年9月、Claude Code の v2.1.260 が公開されました。見出しだけ読むと地味な更新です。でも中身を開くと、お金・安全・作業の見え方に直結する修正がずらりと並んでいます。しかも「新機能が増えた」より「壊れていたものが直った」が圧倒的に多い。
たとえるなら、新しい家具が届いたのではなく、家の水道管の水漏れが見つかって直された感じです。派手さはないけど、財布には効く。
この記事では、AIを仕事に使い始めた人・すでに毎日使っている人の両方に向けて、v2.1.260 で「何が直ったのか」「日本のあなたが今日何をすればいいのか」を、専門用語を全部かみ砕いて説明します。
※2026年9月時点の情報です。内容は公式リリースノートに基づきます。
お金の話:キャッシュが効かず、毎回タダ働きで送り直していた
まず「プロンプトキャッシュ」から。=かんたんに言うと、前に送った文章をAI側に覚えておいてもらい、次からは安く速く使う仕組みです。
たとえるなら、常連のカフェ。毎回「豆はこれで、ミルクは少なめで…」と一から説明する客と、「いつもの」で通じる客。後者のほうが速いし、店員の手間も減る。AIも同じで、キャッシュが効くと再送分の負担が減ります。
ところが v2.1.260 以前には、こんな不具合がありました。
- Claude Fable 5.1 で、ツールを使った後にくっつく文章がキャッシュの対象外になっていた
- そのため、AIが道具を1回使うたびに、その分がキャッシュされていない入力として毎回送り直されていた
道具を使う作業は、1回の会話で何十回も発生します。そこが毎回まるごと送り直しだった、ということです。「いつもの」が通じないカフェに、毎回説明していた状態ですね。
「なぜキャッシュが外れたか」が画面に出るようになった
さらに便利なのがこれ。/cost(=使った量を確認するコマンド)と、画面下の状態表示にある prompt_cache の欄に、キャッシュが外れた原因の見当が表示されるようになりました。
表示される原因は、たとえばこんなものです。
- 道具の定義や、AIへの土台の指示文が変わった
- しばらく何もしないで放置し、有効期限を過ぎた
原因が見えるだけで、対策が打てます。「あ、途中で設定をいじったからか」と分かれば、次からいじる順番を変えればいい。
もうひとつ。/effort(=どれくらい頭を使わせるかの設定)を Claude Fable 5.1 で会話の途中に変えても、キャッシュが無効にならなくなりました。今までは「途中で設定を変えた瞬間、覚えてもらっていた分が全部リセット」だったわけです。
中級者向け:Bedrock を使っているなら権限を1つ足す
ここは一歩踏み込んだ話です。AWS の Bedrock 経由で使っている場合、途中で止めたリクエストの入力量の数え方が変わりました。
これまでは「1トークンのリクエスト」を投げて数えていました。今は AWS の CountTokens という無料の仕組みを使います。ただし、そのために bedrock:CountTokens という権限を付けておく必要があります。ここを忘れると、数え方の改善の恩恵を受けられません。設定を触れる人は、今日中に足しておくのがおすすめです。
安全の話:「読み取り専用」のはずのフォルダが、書けてしまっていた
ここが今回いちばん怖い修正です。
Claude Code には「このフォルダは読むだけ」「ここは触るな」という決まりを書けます。=かんたんに言うと、AIが触っていい場所とダメな場所の線引きです。
その線引きが、条件しだいで効いていませんでした。
- パスに丸かっこ ( ) が入った決まりが、無効なものとして捨てられていた
- その結果、「読み取り専用」にしたはずのフォルダが書き込めてしまっていた
家でいうと、鍵をかけたつもりの部屋のドアが、実は開きっぱなし。しかも本人は施錠済みだと思っている。いちばんまずいパターンです。v2.1.260 で修正されました。
あわせて、こんな穴もふさがれています。
- 決まりの書き方に閉じていない
[があると、すべてのファイル編集が「正しくない正規表現です」というエラーで失敗していた問題を修正 - zsh の設定用の書き込み(REPORTTIME、REPORTMEMORY、DIRSTACKSIZE)にこっそり別の命令を紛れ込ませた書き方が、確認なしで自動承認されていた問題を修正。今はちゃんと承認を聞いてきます
最後のやつは、見た目はただの設定変更なのに、中身は別の命令。宅配の伝票に見せかけた別の紙、みたいなものです。これが素通りしていたのが、止まるようになりました。
やりすぎた変更は取り消された
もうひとつ大事なのが「取り消し」です。ひとつ前の 2.1.259 で入った変更が、v2.1.260 でリバート(=元に戻すこと)されました。
その変更は、「読むな」の決まりをコマンドの引数にも当てはめる、というもの。安全側に倒したつもりが、副作用が出ました。
Read(./**/build/**)という決まりがあると、普通のnpm run buildまで拒否されてしまうcd … && grepのような命令が、自動で進むモードでもいちいち確認を求めてくる
安全にしすぎて仕事が止まる、という典型例です。ちゃんと元に戻した判断のほうを、私は評価したいところ。
見える化:作業が見える、そして「嘘の成功」が消えた
3つめは、画面まわりです。
差分パネルが追加されました。 全画面モードのとき、会話の横に開いて、Claude が編集した「まだ保存前の変更」を表示します。/diff で出し入れできます。
AIに任せていると、いちばん不安なのが「今なに書き換えてるの?」です。それが横に出続ける。運転席の横にナビが常時表示されるようなものです。
/rewind の嘘の成功報告も直りました。 /rewind と --rewind-files は、作業を前の状態に戻す機能です。ところが、戻すための控えのファイルが無いときでも「成功しました」と報告していました。実際には何も戻っていないのに、です。
これは静かに怖い。「戻したから大丈夫」と思って先に進むと、ズレたまま作業が積み上がります。
さらに、こんなものも直っています。
model: fableを指定したAIの分身(=あなたの代わりに作業する小さなAI)が、ANTHROPIC_DEFAULT_FABLE_MODELに付けた[1m]の印を無視し、黙って 200K の記憶量で動いていた問題を修正/modelの一覧に Claude Fable 5.1 が出ず、/model claude-fable-5-1と手打ちしないと選べなかった問題を修正- 1M(100万トークン)まで覚えられるモデルで、上限の直前に自動で要約してまとめ直すように改善。とても大きな内容でも、10分でタイムアウトして失敗することがなくなった
/ultrareviewの待ち時間を、これまでの30分から最大45分に延長
「黙って 200K で動いていた」は地味に効きます。長い作業を任せたのに途中から急に忘れっぽくなる、という現象の原因になり得たからです。印を付けたつもりが効いていなかった。ここも「鍵をかけたつもり」と同じ構図ですね。
日本のあなたが、今日から真似できること
海外の更新情報は、読んで終わりだと1円にもなりません。ここからは、日本で1人〜少人数でAIを使っている人向けの、具体的な行動です。
やることは3つだけ。
1つめ、/cost を1回打つ。今どれだけ使っていて、キャッシュが効いているか外れているかを見ます。原因の見当も出ます。ここを見たことがない人が本当に多い。
2つめ、「触ってほしくない場所」に本当に書けないか試す。丸かっこ入りのフォルダ名を使っている人は特に。日本語のプロジェクトだと「請求書(旧)」みたいなフォルダ、ありがちです。
3つめ、全画面にして /diff を開いたまま作業する。AIが何を書き換えたか、目で追う癖をつけます。
コピペで使える点検テンプレ
自分の作業を5項目で採点させるテンプレです。そのまま貼って使えます。
あなたは業務改善の相談役です。私のAI活用のやり方を点検してください。 私の業務:【ここに業務を書く】 使っているAIツール:【ツール名】 今の手順:【1日の流れを3〜5行で】 次の5項目を各10点で採点し、点数の理由を1行ずつ書いてください。 ①同じ説明を毎回打ち直していないか(ムダの多さ) ②AIに触らせたくない場所を、決まりとして書いているか ③AIが何を書き換えたか、作業中に確認できているか ④失敗したときに、元に戻せる手順があるか ⑤その作業を人がやった場合、月に何時間かかるか 最後に、明日から変える点を3つ、優先順にしてください。専門用語は使わず、中学生にも分かる言葉で書いてください。 **業種別の穴埋め例①(EC在庫発注)** 業務=「毎週の在庫チェックと発注量の下書き」、手順=「販売データを書き出す→売れ筋を並べる→発注数の案を作る→自分が承認して発注」。 **業種別の穴埋め例②(問い合わせ一次対応)** 業務=「メール問い合わせの一次返信の下書き」、手順=「受信箱から未対応を集める→よくある質問に当てはめる→返信案を作る→自分が読んでから送信」。
点が低かったときの打ち手
- ①が低い → 毎回打っている説明文をファイルに固定し、会話の途中で設定をいじらない
- ②が低い → 触らせない場所を決まりとして書き、丸かっこや
[を含むパスは書き方を見直す - ③が低い → 全画面にして
/diffを開き、書き換え内容を横に出したまま進める - ④が低い → 戻す操作をした直後に、本当に戻ったかファイルを目で確認する
- ⑤が低い → 時間を測って数字にする。数字が出ない改善は続かない
まとめ:地味な更新こそ、財布と信用に効く
v2.1.260 は新機能で殴るタイプの更新ではありません。お金が漏れる穴、鍵が開いていた穴、嘘の成功報告。この3つを静かにふさいだ更新です。
派手さはない。でも、あなたが毎月払う金額と、事故を起こさない安心には、まっすぐ効きます。
今日:更新して、/cost を1回打つ。キャッシュが外れている原因が出ていないか見る。それだけで十分です。
1週間:触らせたくないフォルダに本当に書けないか、実際に試す。丸かっこ入りのパスを使っているなら最優先。全画面で /diff を開く習慣もここで作る。
1か月:上のテンプレで自分の作業を採点し、低かった項目から順に直す。Bedrock を使っているなら bedrock:CountTokens の権限を足す。1M まで覚えられるモデルで長い作業を任せるなら、記憶量の印が効いているかも確認しておく。
最初の一手は、/cost を1回打つこと。ここだけやってください。

