月額10万円のSaaSを月500円に|非エンジニア向け置き換え7選と2週間ロードマップ
毎月のSaaS代を一度でいいから合計してみてほしい。CRM、分析、請求、フォーム、メール配信、チャット、スケジュール調整。気づけば月10万円を超えていないだろうか。ひとつひとつは数千円で、必要経費だと思って払い続けてきたはずだ。だが棚卸しをしてみると、年間で120万円を軽く超えている事業主は珍しくない。私が話を聞いたある個人事業主は、この合計額を見て数分間フリーズしたあと、2週間で月500円台まで落とした。本人はコードを一行も書けない。この記事では、その置き換えのやり方を、非エンジニアの読者がそのまま真似できるように分解していく。
この記事の前提
この記事はひとりで小さな事業を回している人のために書いた。従業員数人のスモールチームや、副業を少しずつ本業に育てている人も含まれる。読者に技術力は求めない。ターミナル(黒い画面)という言葉を聞いて身構える人でも読めるように書いたつもりだ。
前提として、私はSaaSそのものを否定しない。月に数千円で得られる時短と安心は、駆け出しの頃ほどありがたい。問題は、事業がある程度回り始めたあとだ。使っていない機能に課金し続け、似た機能のツールが重複し、解約が面倒で惰性で払っている。この重複と惰性を、Claude Code(Anthropic社が出しているAIプログラミング道具)を使って最小コストの自前環境に置き換えていく。
スタンスはひとつ。派手な自作開発を勧めたいのではない。月10万円という支出を、月500円という下限まで落とす現実的な手順を見せたい。それだけだ。
なぜ今、SaaSの見直しなのか
ここ2年ほどで、非エンジニアが自前の小さなシステムを持つハードルは劇的に下がった。Claude Codeのように、日本語で「こういうものを作って」と頼むだけで動くものが返ってくる道具が普及したからだ。以前なら外注して30万円、内製しても1週間かかった作業が、数時間で終わる場面が増えている。
一方でSaaSの価格は上がり続けている。為替の影響もあって、ドル建てのツールは実質2割以上値上がりしている感覚がある。CRM1本で月2万円、分析ツールで月1万円、ヘルプチャットで月8千円、という具合に積み上がっていく。事業の売上が倍になっていないのにSaaS代だけ倍になる、という歪みがあちこちで起きている。
この歪みを正すチャンスが、今ちょうど訪れている。道具は安くなった。置き換える勇気さえあれば、固定費は大きく削れる。
月10万円の内訳を見てみる

図: 月10万円を構成する7つのSaaS
まず敵の顔を知るところから始めたい。ある個人事業主が使っていたSaaSの月額を、整理した形で並べてみる。金額はやや丸めているが、よくある構成だ。
- CRM(顧客管理システム):月22,000円
- アクセス解析:月9,800円
- 請求書発行:月4,400円
- フォーム作成:月5,500円
- メール配信:月15,000円
- サイト内チャット・ヘルプ:月8,800円
- 予約・日程調整:月3,500円
ここまでで月69,000円。ここにプロジェクト管理、クラウドストレージ、デザイン系、会計の一部が乗ると、簡単に月10万円を超える。年間にすると120万円。これを目の前に置くと、ひとつくらい外注できたな、と誰もが思う。
この記事では、上の7つをひとつずつ分解していく。すべてを自作しろと言いたいのではない。残すものと置き換えるものの線引きを、自分の頭で引けるようになるのが目的だ。
置き換えの基本原則
本題に入る前に、原則を4つだけ共有させてほしい。これを外すと、節約したつもりが地獄になる。
ひとつ、データは自分の手元に置く。置き換え先は、自分が中身を触れる場所でなければ意味がない。具体的にはSupabase(無料から使えるデータベースサービス)などの、自分のアカウントに紐付くデータ置き場を使う。
ふたつ、コア業務は触らない。売上が直接立っている業務フローのツールから外すのは最後でいい。リスクが低く、依存度も低いものから順に置き換えていく。
みっつ、置き換えた瞬間に解約しない。旧ツールと新しい仕組みを最低2週間は並走させ、新しい側にデータが正しく流れているかを確かめる。
よっつ、最初の作り込みは8割でやめる。完璧な管理画面を目指すと終わらない。月の固定費を下げるのが目的なのだから、機能は最低限でいい。
この4つを胸に刻んだうえで、7つの置き換えパターンを見ていこう。
置き換えパターン7選
1. CRM(顧客管理システム)
CRMは顧客の情報と、やり取りの履歴を貯めるためのものだ。大手のCRMは機能が多すぎて、個人事業主はその2割も使っていない。たいていは、顧客の連絡先、契約の状況、次にやるべきこと、過去のメモ、この4つが見られれば足りる。
置き換え先は、Supabaseにテーブルをひとつ用意し、管理画面はClaude Codeに頼んで作ってもらう。私が知っているケースでは、最初の形になるまでに3時間もかからなかった。
注意点は、名刺管理アプリのような高度なOCR(画像から文字を読み取る機能)は作らないこと。そこを自作しようとすると沼にはまる。名刺のデータ化だけは月数百円の外部サービスに任せ、入ったあとの管理だけ自前にする、という割り切りが効く。
2. アクセス解析
アクセス解析は、サイトに何人が来て、どこから来て、何を見たかを記録する仕組みだ。多くの人が大手の無料解析を使っているが、プライバシー周りの設定が年々複雑になり、そのぶん有料の代替に月1万円前後払っている事業主も増えた。
ここは参考にできる海外事例がある。Plausible Analytics(プロザブル・アナリティクス)は軽量なアクセス解析を月額数ドルで提供しており、少人数の運営で月商1,500万円規模に到達したと公開している。重い解析はいらない、という層が世界中に大量にいるということだ。
個人事業主がこれを真似するなら、自分で解析を組むよりもPlausibleのような軽量SaaSに乗り換えるのが早い。月に数ドルで済む。どうしても自前にしたい場合は、Supabaseに閲覧ログを貯めて、ダッシュボードをClaude Codeに作ってもらう。私が見たケースでは、日別の訪問数と流入元と人気記事の3画面だけで、元のツールの用が足りていた。
3. 請求書発行
請求書の発行は、日本の事業主にとって法令との兼ね合いがあるので、安易な自作はおすすめしない。ただ、単発の請求や海外向けの見積書まで含めて有料SaaSに入っているケースは多い。
ここは割り切って、コア業務の請求は既存の国内SaaSに残す。そのうえで、海外向けやスポット案件だけ、自前のフォームから発行する仕組みにする。Claude Codeに「PDFを生成して、メールで送る簡単な仕組み」を頼めば、半日で形になる。法令が関わる領域は無理に自作しない、という線引きがここでも大事になる。
4. フォーム作成
問い合わせフォームやアンケートのために月数千円払っているなら、ここは一番削りやすい。置き換え先は、自分のサイトに一枚HTMLのフォームを置き、送信先をSupabaseのテーブルにするだけだ。
Claude Codeに頼む言葉は、たとえばこうなる。
自分のサイトに埋め込む問い合わせフォームを作ってほしい。項目は名前、メール、用件の3つ。送信したらSupabaseの「inquiries」テーブルに保存し、自分のメールに通知が飛ぶようにしてほしい。スパム対策の簡単な仕組みも入れてほしい。
これで十分だ。凝った分岐や自動返信は後回しでいい。
5. メール配信
メール配信は、顧客に定期的にお知らせやニュースレターを送る仕組みだ。読者数が数千人を超えてくると、月1万円以上が当たり前になる。
ここは置き換えの難易度が少し上がる。配信の到達率(相手の受信箱に本当に届く割合)は、自作では維持しづらいからだ。現実的には、配信エンジン部分だけは外部サービス(月額数千円の低価格帯のもの)に任せ、読者リストの管理と配信内容の編集だけ自前にする、という分業がおすすめだ。
読者リストを自前で持つ利点は大きい。乗り換えのたびに名簿の移行で消耗することがなくなる。Supabaseに購読者テーブルを置き、解除リンクだけはきちんと動く状態にしておく。ここは法律が関わるので手を抜けない部分だ。
6. サイト内チャット・ヘルプ
サイト内チャットは、訪問者の質問にリアルタイムで答える窓口だ。多機能なSaaSは月8,000円前後する。だが個人事業主のサイトで、チャットが1日に何件来るだろうか。週に数件、という規模なら、自前で十分まかなえる。
置き換え案はこうだ。サイトに小さな質問フォームを置き、送信された内容は自分のメールとSupabaseに届く。返信は普通のメールで返す。見た目はチャットにならないが、利用者が求めているのは「質問を投げる窓口」であって、リアルタイム性ではない場合が多い。
さらに進めるなら、よくある質問にはClaude(Anthropicの対話AI)を使った自動回答を挟む。過去の回答履歴を読み込ませ、新しい質問に下書きを作らせる。最終的に自分が承認して返す。これだけでチャット窓口の運用負担は大きく下がる。
7. 予約・日程調整
打ち合わせの日程調整ツールは便利だが、個人事業主にとっては月数千円の割に使用頻度が低い。ここも置き換えの旨味が大きい。
自前で作るのは大げさなので、無料で使える低価格帯のツールに移すか、シンプルな静的ページに「空いている時間帯」を自分で書いて出しておく、というやり方でも実は足りることが多い。予約の自動化が売上に直結しない業種なら、月額を払い続ける必要はない。
参考として海外の事例を挙げておく。Dub.co(ダブ・コ)は、URL短縮という領域で大手のBitlyに対抗して生まれた小さなプロダクトで、1人運営から出発して数万人のユーザーを獲得した。既存のSaaSが高すぎる、と感じたひとりの開発者が、必要な機能だけに絞って作ったことが出発点だ。個人事業主の置き換えの発想は、これと同じだ。全機能は要らない。自分に必要な機能だけ、最小で持つ。
参考にできる国内の動き
国内でも、大きなSaaSから離れて自前の小さな仕組みに戻る動きは出てきている。私が知っている国内の個人事業主の中には、ECの注文管理を自前のダッシュボードに切り替えたことで、月4万円の固定費を月数百円まで落とした人がいる。特別な技術があったわけではない。Claude Codeに毎日1時間ずつ頼み事をして、2週間で自分の業務に合ったものを組み上げた。
この人が強調していたのは、出来上がったものの質よりも、自分の業務の形に完全にフィットしている気持ちよさだった。SaaSはどうしても、10社共通の平均的な形にならざるを得ない。自前は、自分ひとりのための形になる。月の固定費が下がることと、同じくらい、この気持ちよさが効くらしい。
2週間ロードマップ

図: 14日間の置き換えロードマップ
ここからは具体的な手順に入る。非エンジニアが、何も準備がない状態から2週間で月10万円を月500円に落とす流れを、日単位で書く。
1日目:棚卸し
まず、この1年で課金したSaaSをすべて書き出す。クレジットカードの明細を見れば早い。金額、用途、最後に使った日、代替できそうかどうかの4列で表にする。この時点で、使っていないのに払っているものが2〜3本見つかる。それはすぐ解約していい。
2日目:ゴール設定
次に、残ったSaaSを3グループに分ける。ひとつ目は絶対に置き換えない(請求書の本体、会計、本人確認が必要なもの)。ふたつ目は置き換えたい(CRM、フォーム、チャット、解析、日程調整)。みっつ目は迷っている。迷っているものは今回は触らない。
3日目:Supabaseの準備
Supabaseに無料アカウントを作る。プロジェクトをひとつ立ち上げる。クレジットカードは要らない。ここが自分のデータの保管場所になる。
4日目:Claude Codeの準備
Claude Codeを自分のパソコンに入れる。日本語で頼み事ができる状態にする。最初の頼み事は「自分のSupabaseに繋いで、テーブルを見せてくれる小さな画面を作って」だけでいい。これが動いたら、もう半分来ている。
5〜7日目:フォームとCRMの置き換え
まず一番リスクの低いフォームから置き換える。1日目でまとめた項目を、Claude Codeに伝えてフォームを作ってもらう。翌日、送信された問い合わせがきちんとSupabaseに入ることを確認する。ここでCRMの最小版も作ってしまう。顧客の一覧、検索、メモ追加の3機能があれば、初期の用は足りる。
8日目:並走開始
旧SaaSと新しい仕組みを並走させる。新しい仕組みに入っていないデータがないか、毎朝5分だけチェックする。問題がなければ、次に進む。
9〜10日目:解析とチャット
解析は、軽量SaaSに乗り換えるか、自前で簡単なログ画面を作る。チャットは質問フォーム+メール返信に切り替える。ここまでで月額は半分以下になっているはずだ。
11〜12日目:メール配信の読者リスト移行
メール配信は、配信エンジンを低価格帯に移し、読者リストを自分のSupabaseに持つ形に切り替える。解除リンクが正しく動くことは必ず確認する。この工程が一番気を使う。
13日目:旧SaaSの解約準備
並走中に問題が出なかったツールから順に、解約手続きに入る。年契約は次回更新日をカレンダーに書いて、その日に落とす。
14日目:振り返り
月額の合計を改めて出し直す。当初の目標の500円台に到達していなくても構わない。2,000円でも大勝利だ。大事なのは、どの固定費が自分の裁量で動かせるかを理解したことだ。
Claude Codeに頼む具体的プロンプト例
非エンジニア読者がつまずくのは、たいていプロンプト(AIへの頼み方)の部分だ。ここにそのまま使える頼み方を3つ置いておく。
例1:CRMの最小版
私は個人事業主で、コードは書けない。自分の顧客管理のために、とても小さな管理画面を作ってほしい。Supabaseに「customers」テーブルを用意し、名前、メール、ステータス、メモ、最終接触日の5項目を持たせる。画面では、一覧、検索、新規追加、編集ができれば十分。デザインは地味でいい。動くことを最優先にしてほしい。分からない手順があれば、私に聞きながら進めてほしい。
最後の一文が効く。Claude Codeは、指示が曖昧だと勝手に進んでしまうことがある。聞きながら進めてほしい、と明記すると、非エンジニアに優しい進め方になる。
例2:問い合わせフォーム
自分のサイトに埋め込む問い合わせフォームを一枚作ってほしい。項目は、名前、メール、用件の3つ。送信したらSupabaseの「inquiries」テーブルに保存し、私のメールに通知が飛ぶようにしてほしい。スパム対策として、送信ボタンを3秒待たないと押せないようにする、くらいでいい。動くHTMLファイルをそのまま渡してほしい。
ここでもポイントは、最初から凝った仕組みを求めないことだ。スパム対策も、プロ仕様のものは要らない。
例3:アクセス解析の小さな画面
自分のサイトの訪問記録を見る画面を作ってほしい。サイトに入れる小さな記録用のコードと、Supabaseに貯まった記録を日別に表示するダッシュボードの2点を作ってほしい。ダッシュボードは、日別の訪問数、流入元のトップ5、人気ページのトップ10の3つだけ見られれば十分。個人情報は保存したくないので、IPアドレスは記録しないでほしい。
最後の個人情報の指定も大事だ。自前で持つ以上、責任も自分に来る。先にルールを伝えておく。
置き換え前後のコスト比較

図: 置き換え前後の月額固定費
具体的な数字を置いておく。あくまでよくある構成の一例だ。
- CRM:22,000円 → 0円(自前)
- 解析:9,800円 → 500円(軽量SaaSまたは自前)
- 請求:4,400円 → 4,400円(据え置き)
- フォーム:5,500円 → 0円
- メール配信:15,000円 → 2,000円(配信部分のみ低価格帯に)
- チャット:8,800円 → 0円
- 予約:3,500円 → 0円
合計で月69,000円が、月6,900円になる。タイトルでは月500円と書いたが、これは極端まで振り切った場合の数字で、請求書やメール配信を完全に自前にできた場合の下限だ。現実的には、月6,000〜8,000円あたりがソフトランディングの着地点になる。それでも年間で70万円以上が浮く計算になる。
よくある失敗・落とし穴
ここまで読んで、やる気になった読者がいるかもしれない。だが飛びつく前に、よくある失敗を4つ伝えておきたい。
ひとつ、旧SaaSを即解約してしまう。新しい仕組みが動いた瞬間に勢いで解約したくなる。だがデータの引き出しが終わる前に解約すると、過去の履歴が取り出せなくなることがある。最低2週間は並走するのが鉄則だ。
ふたつ、作り込みすぎる。最初は8割で止める。管理画面を美しく整えたくなる気持ちは分かるが、それは固定費が下がってからの趣味でやればいい。
みっつ、法令の領域に手を出す。請求書の保管期間、個人情報の取り扱い、メール配信の同意周り。このあたりはSaaSが代わりに守ってくれていた部分だ。自前にするなら、自分で守る責任がある。不安なら素直にSaaSに残す。
よっつ、データの入れ物を複数に分散させる。あれもSupabase、これもGoogleのシート、これは別のサービス、という形にすると、数ヶ月後に自分で把握できなくなる。入れ物はひとつに寄せる。寄せきれないものは、週に一度まとめて別の場所にバックアップを取る運用にする。
この4つさえ避ければ、置き換えは地味な作業の積み重ねでしかない。劇的な技術はひとつも要らない。
月500円に到達したあとに起きること
最後にひとつだけ、数字の話ではない話をしたい。
月の固定費が10万円から数千円に落ちると、事業の決断のスピードが変わる。新しい挑戦をするときに、固定費の重さで躊躇しなくなる。月10万円払っていたときは、売上が少し落ちただけで眠れなくなった。月数千円になると、数ヶ月売上がゼロでも事業が死なない。この安心感が、挑戦の踏み込みを変える。
私が話を聞いた個人事業主が言っていたのは、浮いたのはお金よりも、判断の余白だった、という言葉だ。SaaSの棚卸しは、単なる節約ではなく、自分の事業の足腰を見直す作業だと思う。
明日からやる3つのこと
最後に、この記事を閉じたあとの行動を3つに絞る。
今日か明日のうちに、クレジットカードの明細を開き、この1年で課金したSaaSを全部書き出す。金額と用途の2列だけでいい。所要時間は30分。これだけでも、使っていないものが2〜3本見つかる。
その一覧を眺めて、絶対に置き換えないものにマルをつける。請求書、会計、コア業務に関わるもの。それ以外は置き換え候補だ。判断に迷うものは、今回は触らない。
一番リスクの低い置き換え候補をひとつ選び、Claude Codeに頼むための頼み文を、この記事の例を真似して1つ書いてみる。実際に動かさなくていい。書くだけでいい。書いてみると、自分の業務を自分の言葉で説明する練習になる。これが、置き換えの一番大事な準備だ。
固定費は、自分の意思でいつでも動かせる。そのことを思い出す2週間にしてほしい。




